圧倒的な急成長を遂げているワークマン。
「価格に対するパフォーマンスが高い」「ファッション性を兼ね備えた機能的なアパレル」として、顧客層を拡大し続けていますが、今回はそんなワークマンが仕掛ける新たな仕掛け「クリック&コレクト」の打ち手について見てきたいと思います。
C&C(クリック&コレクト)とは
C&C(クリック&コレクト)は、ECサイトで商品を購入した後に、店舗や宅配ボックスなどのピックアップポイントで商品を受け取るシステムのこと。
C&Cの類義語として、BOPIS(Buy Online Pick-Up In-Store)がありますが、これは受け取り場所は店舗のみで、受け取る際に試着や確認をしてから消費者が商品を受け取ります。
今回詳しく見ていくワークマンでは、C&Cの中でもBOPISに当たる、店舗受け取りが可能なECに注力しています。
店舗受け取りのシステムは、返品率が比較的高いアメリカで普及しています。
その場で試着を行ってもらうことで返品自体を減らすことができ、ブランドとしては返品送料を減らしたり、商品の在庫回転率を上げたりすることがメリットです。
また、店舗に訪問してもらうことで、非計画購買(購入予定でなかったものを店舗で購入)が増えて、店舗売上も伸びるという利点もあります。
C&C戦略のメリット・デメリットは、“C&C戦略はEC売上最大化につながるのか”で詳しく述べています。
ワークマンのC&C戦略|店舗受け取り強化へ
コロナ禍でアパレル産業が軒並み売り上げを落としたなかで、圧倒的に売上高を伸ばしたワークマン。
作業服というカテゴリに縛られず売上を伸ばし続け、近年で最も注目される日本企業のひとつです。
2022年第2四半期の決算では11期連続の最高益を叩き出しており、
第2四半期累計は、会社計画(124.25億円)を上回る126.04億円と発表、株価もそれに応じて大幅に反発しています。
絶好調のワークマンですが、その要因とは一体何なのでしょうか。
「ワークマン女子」や「過酷ファッションショー」といった話題性も去ることながら、2020年からC&C戦略に注力して新たなECのあり方を定義しています。
ワークマンのEC戦略について詳しく見ていきましょう。
楽天市場での販売中止(2020年)
ワークマンは2020年1月27日に、2月末をもって楽天市場から撤退することを発表しました。
一部メディアでは楽天市場が3,980円以上の購入で一律送料無料(送料は出品者負担)とする方針を発表したタイミングと重なり楽天市場に反発したように報道されていましたが、ワークマンの目的はあくまで自社ECの強化。
特に、自社の販売網を生かした店舗受け取り、すなわちC&Cを拡大していくことにありました。
楽天市場では、「購入者が宅配以外の受け取り手段を選べない」という課題があり、配送コストをワークマンと購入者で負担していました。
自社ECでは購入者は、店舗受取というオプションを選ぶことができ、商品を送料無料で手に入れることができます。
戦略的に楽天市場から撤退してC&C強化に取り組んだワークマンですが、送料だけがC&C戦略に注力する理由でしょうか。
今後の戦略目標とともに、注力している背景について探ります。
今後の戦略目標|2022年に店舗受取通販比率70%へ
2020年3月期決算では、2021年の店舗受け取り割合の目標を80%としていましたが、結果は57%で着地。
目標を下回った理由は、受取可能な店舗を想定より増やすことができなかったことや、コロナ禍による外出機会の減少で配達が選好されたことなどが考えられます。
しかし、ユニクロは店舗受取比率が4割程度であるのを踏まえると、ワークマンは店舗受取の割合が十分高いです。
ワークマンは、2022年のEC購入に占める店舗受け取りの割合の目標を70%と設定しています。
個人的には、店舗に行くのが面倒だなと思うのですが、ワークマンは以下の3点を店舗で受け取るメリットとしています。
①最短3時間で受け取り可能
翌日以降に自宅に届けられるECよりも、近くにある店舗へ出向いた方が早く手に入れられるというメリットです。
全国約900店舗のワークマンだからこそ、店舗に受け取りに行くというハードルが低いように思います。
ワークマンは、10~15年かけて店舗数を2000店舗に拡大することを掲げており、それが実現すれば生活圏の半径2キロ以内にはワークマンがあるという状態になると述べています。
②送料無料
上でも書いていますが、通販で自宅まで郵送してもらうと追加で送料がかかってしまいます。
ワークマンのオンラインサイトでは、1万円以上の購入で送料無料になりますが、単価を考えると1万円以下の購入も少なくないはずです。
店舗受け取りについてのページで一番押し出されていることからも、購入者にとって送料がネックなのはありそうですね。
③その場で試着・サイズ交換可能
ECでファッションアイテムを購入して失敗した理由を調査すると、最も多い回答が「サイズが合わない・思っていたものと違う」(63.0%)、ついで「見た目が思っていたものと違う」(42.7%)という結果が出ています。
(マガシークによる消費者調査より)
ブランドによってサイズ感や質感が若干異なってくるので、服は店舗で買うという人も多いはず。
反対に、店舗受け取り予約をしておくことで、サイズ確認をしに訪問しても欲しかった商品がないという事態も免れます。
他にも、EC店舗受取では法人向けにネーム加工サービスを行っており、ワークマンならではの法人ニーズへの対応もしています。
しまむらは2019年1月から「しまコレ」というアプリの提供を開始、スマホアプリで注文して、お店で受け取れる仕組みを構築していました。
2020年自社ECを立ち上げると同時に、しまコレのサービス自体は終了してしまうのですが、ECで店舗受取するユーザーは約9割。
しまコレを使って店舗受取に慣れていたユーザーがいたことや、比較的安価で客単価も小さいので送料の割合が大きくなってしまうことが店舗受取の割合が大きい要因だと言えます。
しまむらグループとして国内約2,000店舗なのを踏まえると、ワークマンも今後店舗数が増加していくに当たって、店舗受取割合が上がっていきそうです。
C&C戦略はEC売上最大化につながるのか
ワークマンのC&C戦略について見てきましたが、C&C戦略それ自体がどういうメリット・デメリットがあるのか、各ステークホルダーごとに考えてみました。
顧客、店舗、会社それぞれのメリット・デメリット
メリット | デメリット | |
---|---|---|
顧客(ユーザー) | ・配送を待たなくていい ・送料無料 ・試着できる ・店舗に行く前に在庫確認できる | ・店舗に行かないといけない |
店舗 | ・来店者数の増加 ・非計画購買で店舗売上アップ | ・オペレーションコストの増大 |
会社 | ・EC×店舗 クロスセルでの売上拡大 ・配送コストの縮小 ・返品リスクの低下 ・現金支払い者の増加(決済手数料) | ・フランチャイズオーナーの負担増大 |
ここで触れておきたいのが、会社(店舗)のメリットであるEC×店舗のクロスセルでの売上アップです。
スマホで自社ECに飛んできたユーザーを店舗に送客する仕組みは、店舗での体験を促したり、非計画購買で客単価が上がったりとメリットしかありません。
2021年3月期の時点では、2022年は保管から出荷に至るEC事業の見直しを図り、さらに利益を生み出す体制の構築を進めると述べています。
オンラインとオフラインの境がなくなっていくと、それだけ物流含むオペレーションが複雑になっていきます。
ユーザーによりよい購買体験をしてもらうためにも、ワークマンの今後のEC戦略に目が離せません。
ファッション業界のなかでも圧倒的なロジスティクス力を持つZARAですが、昨年「2021年までに最大1,200店舗を閉店する」と宣言したことでも話題になりました。
ワークマンとは反対に店舗数を減らしているZARAは、ワークマン同様にOMO(オンラインとオフラインの融合)を強化していくと述べています。
どうしてZARAは、ワークマン同様店舗数を増やす施策を取らないのでしょうか。
その理由は、大型店舗にサービスを集中させるとともに、店舗を物流拠点として店舗発送を促進するためです。
店舗受取や返品対応のサービスだけでなく、セルフレジやARを用いた試着など、リソースを集中させることで店舗の体験価値を高めることに注力できます。
そして、店舗でも在庫を抱えて発送できるようにしておくことで、、ECで在庫切れになっていても店舗から直接配送し、売り逃しをなくすことができます。
オンラインで注文してから届くまでを再現したビデオです。
ワークマンだからC&Cに注力できた?
ワークマンだけでなく、C&Cに注力するBOOKOFFやユニクロ、しまむらを見ていると、C&CはECにおけるひとつの選択肢として非常に有用な施策だと言えます。
しかし、C&C戦略がどのブランドにも効果的かと言われると、少し難しいです。
C&C戦略をして売上を伸ばすには、下の2つの条件があるのではないかと思っています。
①全国各地の店舗ネットワーク
全国900店舗あるワークマンだからこそ、ユーザーが店舗で受け取るメリットを享受できます。
ワークマンの商品を受け取るのに車を1時間走らせないといけないとなると、2~3日待っても自宅配送を選びますよね。
ユニクロやしまむら、ZARAなど全国各地に店舗があるから、実施できる施策とも言えます。
②店舗側の管理がしっかりしている
店舗側のスキルやノウハウも一定重要だと思っていて、意外と細かく在庫管理できている実店舗は少ないと思います。
ワークマンはエクセルを使ったデータ経営が有名で、社員全員がエクセルを使いこなせるように教育されています。
各店舗に徹底した在庫管理体制があるのか、店舗ごとの需要予測の精度が十分にあるか、重要なポイントだと考えています。
上記2つの条件が前提ではありますが、在庫確認のニーズの強いカテゴリでは、店舗受取までは行わなくても在庫確認できる仕組みが効果的だと言えます。
例えば中古品市場です。
メルカリやラクマといった中古ECの需要が拡大しているとはいえ、中身を確認したり使用感を確認したいという需要は小さくないはずです。
BOOK・OFFは、店舗在庫をECで確認できる公式アプリをローンチしており、2021年5月で300万人の会員数を誇るアプリとなっています。
(電子買取システムなどその他の機能もあります。)
また、全国に店舗がなくても試着してもらうことのできるサービスもあります。
Amazon Primeに入会していれば使うことのできる「prime try before you buy」では、対象商品6点まで選んで自宅で試着することができます。
試着後、購入しない商品を期間終了までにコンビニや郵便局で返送すると、返送しなかった分のみ代金が引かれる設定です。
利用者数がどのくらいいるのかまでは把握できなかったのですが、オンライン売上のひとつのオプションになり得るのではないかなと思っています。
全体のまとめ
今回の調査にあたり、店舗受取の割合やその売上まで詳細の数字を公表している会社は少なかったのですが、予想より多くの小売店がC&C戦略に取り組んでいることがわかりました。
そのため、店舗受取を強化することで、一定程度プラスで利益が生まれているのだと思います。
ただ、前述したように、店舗数や在庫管理体制などをネックに全ての会社がすぐ導入できるものではないです。
上記2点は一朝一夕にはできないものの、各プラットホームが独自のやり方で新しいECを模索している段階だと思うので、お試しにやってみるというのは一つの戦略かと思います。
あと、この記事の執筆中にワークマンの2022年第2四半期の決算が発表されたのですが、説明資料にはC&Cについての記述がなく。(小さくはありますが)
現状では全店舗で受け取りができる訳ではなく、オペレーションの問題などでフランチャイズオーナーとの交渉に時間がかかっているかなとも思ったりします。
フランチャイズ化を積極的に進めているワークマンですが、今後もC&Cを拡大していけるのか引き続きウォッチしていきたいです。
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