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ビール業界を知る|キリンビールが販売量シェアを奪還した背景とその戦略とは?

キリンビールがビール類販売合計数量において王座を11年ぶりに奪還しました。

長きにわたりアサヒが牽引してきたビール業界ですが、今年2021年キリンにその牙城を崩される結果になりました。

ビールのようなマス商品の販売量は無数の要素が重なり合って決まるもので、一概に「このおかげで上手くいった!」と言い切れるものではないと思います。

とは言え、キリンがいくつもの仮説を立て、ここ数年PDCAを回してきたことも間違いありません。

こちらの記事は「キリンビールがビール販売量業界No.1に返り咲いたポイント」について考えてみたいと思います。

目次

ビール業界のおさらい

まずは、簡単にビール業界をおさらいしていきたいと思います。

ビール会社の販売量推移

<引用元>各社決算資料より作成(単位は万箱)

2020年のビール類販売合計数量においてキリンビールが1億2,941万箱を記録し、11年ぶりにアサヒビールを上回りまし

2020年からアサヒビールはビール類販売合計数量を非公表にし、スーパードライ・スタイルフリー・クリアアサヒの主要3ブランドのみ販売数量を公表しており、公式データとしては結果は有耶無耶となっています。

しかし、メディア各社が取材を元にしたデータからキリンビールが逆転していることが推定されています。

参考記事:キリン11年ぶり首位 ビール系「第三」で節約需要 4社販売は16年連続減

なぜアサヒが11年間も首位を継続できたのか?

そもそもアサヒがこれほどまでに首位を続けることができたのでしょうか。そこには大きく2つの要因が挙げられます。

  1. 圧倒的販売量を誇る「スーパードライ」の存在
  2. 飲食店への卸しシェアが高い

①ビールブランドNo.1「スーパードライ」の存在

「スーパードライ」といえばビールを飲まない人でもその名を知らない人はいないと言えるほどメジャーなビールブランド。

以下のように、各ブランドごとの販売数量を見ると、ビール業界でも「スーパードライ」が突出した販売量を誇っています。

<引用元>各社2020年決算資料より作成(単位は万箱)

この不動の1位を誇るスーパードライの存在が、アサヒビールの売上を牽引していると言っても過言ではありません。

②飲食店への販売比率が約5割と業務需要の多くを占める

ビール業界のサプライチェーンからもわかる通り、メーカーの流通網は飲食店、小売が中心となります。その中でも、ビール消費の飲食店への販売量が全体の販売量に大きくすると言って遜色ありません。

実際、業務用ビールが占める市場シェアはおよそ全体のおよそ半分を占めています。

https://toyokeizai.net/articles/-/263897より転載

アサヒビールは、業務用でのシェア率が高く、飲食店での販売量が売上を下支えしており、長年トップシェアを守り続けていた背景があります。

つづいて、ビール業界でのトップが入れ替わった要因について、キリンビールから見た「競合他社の事情」「自社の事情」の両観点で見ていきます。

競合|アサヒビールの低迷

要因①絶対王者アサヒビールの低迷

まずはビール業界の絶対的王者であるアサヒビールの低迷が一因としてあります。

こちらが、直近6年間のアサヒスーパードライの販売数量推移。

<引用元>アサヒグループホールディングス決算資料より作成(単位は万箱)

2015年の販売数量と比較して、「2015年対比61%」と半分近い販売数量の減少となっています

絶対的なブランドを誇ったスーパードライですが、近年販売数量の減少が目立ち、結果としてアサヒビールの低迷へと繋がっています。

現時点では、まだブランド販売数量1位を維持していますが、他ブランドとの販売量差は縮まる一方。メーカーとして、何かしらのテコ入れが迫られていることは間違いありません。

要因②コロナ禍による消費者行動の変化

つづいて、コロナ禍における消費者行動の変化が、飲食店を販売チャネルの中心としていたビール業界全体にダメージを与えたこと。

<引用元>内閣府マンスリートピックスNo.061より抜粋

コロナ禍に入り外食における消費者の支出が前年比-28.2%と大幅に減少しています。また、それに伴い飲食店の売上高も前年比-15.1%減少しています。

販売チャネルの半分を占めている業務用ビール、その中でも飲食店への販売量の比重が大きいアサヒビールが最もダメージを受けることになりました。

自社|キリンビールの3つのマーケティング変革

次に、ここ数年でキリンビールが打ち出している施策について見ていきたいと思います。

詳しくは、キリンホールディングスがホールディングスが公開している情報をご覧ください。

参考:2020年 キリンビール事業方針

投資ブランドの絞り込み

改めてキリンビールの過去10年間を振り返ってみると、10年にわたり10ブランド以上の商品開発を続けていましたが、大ヒット商品を生み出せず苦戦を続けています。

しかし、シェア低下を食い止めるため、場当たり的な派生商品を生み出すことで短期的な利益を取る手法が先行し悪循環を繰り返してしまいます。

そこから、「一番搾り」をはじめとした主力ブランドに投資を絞りこみ、選択と集中の戦略を取ることで窮地を脱していくことにつながっています

<引用元>各社公式サイトより抜粋

現在、ビールのブランド数ではアサヒビールと比べても少ない状態となっています。

消費者視点(Consumer Driven)の商品開発

<引用元>キリンビール公式サイトより抜粋

キリンビールの売り上げ構成比では、主力のビールもさることながら、第3のビールのシェアが非常に大きいです。これには新たなスター「本麒麟」の誕生が大きく関係しています。

本麒麟は徹底した顧客志向の商品開発の結果、誕生しています。

第3のビールをビールの妥協と感じさせないよう商品名に「麒麟」を含め、コーポレートカラーの赤を全面に出したデザインで商品を打ち出しています。

エルモ

「本麒麟」登場時は、赤いデザインのビールはほぼありませんでした。
スーパーの棚で人目につきやすい、手に取られやすい構造にあったのかなと思っています。一種のデザインハックですね。

さらに、ブランドの育成強化として、異例の毎年リニューアルを繰り返すといった徹底ぶりです。

<引用元>キリンビール公式サイト
<引用元>キリンホールディングス決算資料を元に作成

販売開始からわずか3年足らずで、販売本数を約2.1倍まで伸ばしています。

コロナ禍での節約志向も後押しし、過去10年の新商品のなかでは最速の成長スピードを見せています。

メインブランド「麒麟一番絞り」の高頻度なマイナーチェンジ

変わらない味を提供し続けるアサヒビールのスーパードライと異なり、主力ブランドである一番搾りは、2017年、2019年、2021年と2年おきにリニューアルが続けられています。

その結果として、2020年10月~12月においても前年比150%の売上を達成しています。

さらに、過去10年で最高の販売量を記録し続け、逆風が吹いているビール業界でも販売量増を続けています。各社メインブランドは定番商品として手を加えていないなか、主力商品にも飽きさせない工夫を凝らしたことが、販売数量を伸ばすキーファクターになったのかもしれません。

エルモ

プロモーションの視点から言わせてもらうと、たとえほとんど中身が変わっていないマイナーチェンジでも、「一番搾りが新しくなりました!」というコミュニケーションは、頻繁に目にするビールカテゴリーだからこそ有効だと感じます。

「新しくなったなら買ってみようかな」「つい目に止まったから買っちゃおう」など、消費者が手に取る確率を上げるためにやれることは全部やっているなと。

先行投資も欠かさない|キリンビールの新たな成長ドライバー

さらに、キリンビールでは、これから新しい売上を立てるべく、これまで手を出していなかった領域にも力を入れています。

  • DtoCビジネスへのチャレンジ
  • 高単価商材となるクラフトビール
  • 体験価値を高める場の提供

DtoCへの切り込み|月額サブスクサービス KIRIN Home Tap(キリン ホームタップ)

<引用元>キリンビール公式サイトより抜粋

コロナ禍による外出規制が続き、消費が飲食店での業務需要から家庭消費へと移行しています。キリンビールでは2017年から家庭需要の取り込みとして月額サブスクサービスのKIRIN Home Tap(キリン ホームタップ)を開始しています。

コロナ禍の後押しもあり、2021年8月時点で会員数が10万人に到達。2021年度の目標も150億円へと上方修正しています。

2021年通年では広告費含む販売促進費を2020年比で+104億円増額したことからも、業務用の落ち込みに対して家庭消費に集中投資していることが伺えます。

これまでビールメーカーは、卸しおよび飲食店との繋がりが強く、消費者との直接的な接点が希薄でしたが、既存のサプライチェーンに依存しないDtoCが低迷するビール業界の活路として注目を集めていくことになるかもしれません。

次なるビール類の柱を担うクラフトビール

2026年10月に向けて発泡酒、第3のビールを含むビール類の税率を55円程度へ一本化する動きがあります。

酒税の違いで、各社がお手頃な「第3のビール」に力を入れてきたわけですが、税率が統一されるとなると、また別の切り口で商品開発が必要となります。

一つ可能性がある方向性として、家庭消費需要の高まりも踏まえ、大量消費から高付加価値商品に舵を切る消費者が増えることがあげられます。

今キリンビールでは「一番搾り」、「本麒麟」に次ぐ第3の柱をクラフトビールから輩出しようと考えています。

こうした動きの中、2021年3月21日に缶入りクラフトビール「SPRING VALLEY 豊潤<496>」販売されています。

<引用元>SPRING VALLEY公式サイトより抜粋

「味」へのこだわりから「味」+「体験価値」の創出へ

キリンビールではビール体験を創出を目的に2015年に代官山と横浜に、醸造所併設店舗がオープンしています。また2017年SPRING VALLEY BREWERY 京都がオープンし体験価値創出に意欲的です。

SPRING VALLEY BREWERY 京都がオープン

<引用元>SPRING VALLEY公式サイトより抜粋

まとめ|消費者起点のマーケティングで売上を伸ばし続けるキリンビール

まとめると、キリンビールの販売量シェア奪還の要因として、

  • 絶対王者アサヒビールの低迷
  • コロナ禍による消費者行動の変化
  • キリンビールのたゆまぬマーケティング変革

などが挙げられるかなと思います。

キリンビールにとって優位となる外部・競合環境の後押しがあったこともありますが、時代の潮流に乗るための準備をしてきたことがシェア獲得に繋がっているのは間違いありません。

キリンビール最大の勝因は、コロナ以前より従来の主戦場であったtoBに固執せずに、toCへの切り口を試行錯誤し、リニューアルや新商品開発で常に消費者に接触を図っていた点にあると思います。

消費者に選ばれるためには、当然「味」自体も欠かせない要素ではありますが、店頭で「目に留まる」瞬間など消費者の興味を惹く必要があります。これまでビールメーカーは「飲食店に選ばれる」を起点に考えていた節があると思うのですが、

キリンビールでは新たにP&G出身者など消費者起点のマーケティングに特化した人材を採用し、消費者起点の経営を数年間準備してきました。そうして主力ブランドの通年リニューアルや、新商品が生まれて消費者の心を掴んでいくのに成功していきました。

その結果がコロナ禍においてアサヒビールと明暗を分けたのではないかと思います。

toBの市場動向が不透明な中で、卸しや飲食店売上が大きいビール業界といえども、消費者とのコミュニケーションを軸にしたサービスをどのように設計し、消費者の心を掴んでいくのかが、鍵になってくるのではないでしょうか。

参考資料
キリンホールディングス公式サイト
https://www.kirinholdings.com/jp/
 
アサヒグループホールディングス公式サイト
https://www.asahigroup-holdings.com/
 
サントリーホールディングス公式サイト
https://www.suntory.co.jp/
 
サッポロホールディングス公式サイト
https://www.sapporoholdings.jp/
 
週刊エコノミストONLINEキリンビールが通年でも11年ぶりに首位を奪還、ついにあきられたスーパードライ
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210108/se1/00m/020/001000d
 
アドタイ(タモリ・滝クリ・舘・充希、「本麒麟」CM一挙4篇で2230万函へ本腰)
https://www.advertimes.com/20210702/article356951/
 
キリンは選ばれ続けるブランドをつくる DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%81%AF%E9%81%B8%E3%81%B0%E3%82%8C%E7%B6%9A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%82%8B-DIAMOND-%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E8%AB%96%E6%96%87-%E5%B1%B1%E5%BD%A2%E5%85%89%E6%99%B4-ebook/dp/B08V4B72GM
 
究極にうまいクラフトビールをつくる キリンビール「異端児」たちの挑戦
https://www.amazon.co.jp/%E7%A9%B6%E6%A5%B5%E3%81%AB%E3%81%86%E3%81%BE%E3%81%84%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%82%8B-%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%80%8C%E7%95%B0%E7%AB%AF%E5%85%90%E3%80%8D%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%81%AE%E6%8C%91%E6%88%A6-%E6%B0%B8%E4%BA%95-%E9%9A%86/dp/4103504919/ref=sr_1_1?crid=RMGOQ2T365Q2&dchild=1&keywords=%E7%A9%B6%E6%A5%B5%E3%81%AB%E3%81%86%E3%81%BE%E3%81%84%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%88%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%82%8B&qid=1630902512&sr=8-1

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